おすすめホラー小説「怪談のテープ起こし」の感想・レビューです。
「怪談のテープ起こし」は三津田信三さんのホラー短編集です。
「小説すばる」で2013年3月号から2016年1月号に不定期連載した実話怪談6篇が収録されています。
一冊にまとめるに際し、短編の掲載順を編集者と相談していたのだが、女性編集者が実際に体験した不気味な出来事を各短篇の間に挿入してほしいと言い出して……
「死人のテープ起こし」を発端に、女性編集者は三津田氏が蒐集した怪談のカセットテープからネタになるものを探していた。
テープを聞くようになってから、女性編集者の周囲で異変が起き、その内容を「幕間」という形で挟むことに。
カセットテープから選ばれた短編と、女性編集者が体験した出来事には共通点が……
著者:三津田信三
発行日:2016年7月30日
発行元:集英社
選ばれしテープの聞き手と怪談
- 序章
三津田氏は女性編集者の時任、その上司の岩倉と打ち合わせをしていた。
これまでに「小説すばる」で不定期連載した実話怪談を、一冊にまとめて刊行するのだが、掲載順をどうするかという話が持ち上がる。
極力は似通った話が続いてしまわない方が良い。
しかし、時任は雑誌掲載順で収録することと、自身が連載期間中に体験した出来事を各短篇の間に挟むことを提案する。
- 死人のテープ起こし
三津田氏が編集者だったころ、ある企画の関係でフリーライター・吉柳吉彦と出会う。
吉柳は自殺者が死ぬ前に吹き込んだカセットテープを集めていた。
そのテープの内容を書き起こす企画はどうだろうと話が進み、サンプルとして3つのテープを書き起こした原稿が三津田氏のもとに届く。
しかし、吉柳はその後連絡が取れなくなり、吉柳から1本のカセットテープが届いて――
- 留守番の夜
三津田氏が後輩から聞いたある女性の体験談。
女性は大学のOGからある家で一晩留守番するだけの楽なバイトを紹介される。
女性はバイトを引き受けることにした。くだんの邸宅は豪華なつくりだったがどこか奇妙だ。
そこに住む夫妻が二人とも出かけ、叔母がひとり残るため留守番をしてほしいとのことだったが、妻が言うには叔母は亡くなっているという。
数年前には近くで殺人事件があったという話も聞かされ、不安になってくる。
そして、ひとり知らない家での留守番中、物音が聞こえてきて――
- 幕間(一)
三津田氏は実話怪談を蒐集するのが趣味で、体験者の話をカセットテープやMDに録音していた。
そのことを女性編集者・時任に話すと、三津田氏の負担を減らすため、自分がテープの中からネタになりそうな怪談を探すと言い出す。
おかげで三津田氏は「留守番の夜」「集まった四人」を書き上げたが、時任の周囲で異変が――
- 集まった四人
三津田氏が編集者から聞いたある男性の体験談。
男性はバイト先で知り合った男性とハイキングに行くことになったが、当日その男性が参加できなくなったがハイキングに行ってくれと連絡が入る。
待ち合わせ場所に集まったのは、面識がない男女3人だった。仕方なく、計画者抜きの4人でハイキングに出掛ける。
目的の山の麓には神社があり、登山者は参拝しなければ一つ目で一本足の魔物に行き遭うという伝承があって――
- 屍と寝るな
三津田氏が同窓会で再会した女性から聞いた体験談。
女性は入院中の母と同室になった老人・鹿羽洋右の話をする。女性が病室にいると鹿羽が話しかけてくるのだが、話の内容が良く分からない。
子供のような口調なので、子供時代に退行しているように思える……何か恐ろしい体験をした様子だ。
三津田氏は女性がまとめた話から、老人が子供時代に何を体験したのか推理を試みるが――
- 幕間(二)
時任の周囲で起きていた現象は、彼女がテープ起こしを中断してから収まったようだった。
しかし、時任はテープ起こしを再開してしまう――
- 黄雨女
三津田氏がある女性占い師を取材した際に聞いた話。
女性占い師が大学生だったころ、当時付き合っていた男性が大学に通う途中に変な女がいたという。
雨も降っていないのに、レインコートを着て長靴を履いて、傘を差して。それらすべてが黄色で。
女性と彼氏は以来何度も見かけるようになったその女を”黄雨女”と呼ぶことにした。
女はいつも同じ格好で、彼氏に付きまとうように現れるようになって――
- すれちがうもの
ある女性の体験談。
女性は東京で社会人となり、毎朝同じ時間にマンションを出て、電車に乗り通勤していた。
ある朝、マンションの扉の前に一輪の花が活けられた瓶が置かれていた。それから毎朝、女性は通勤途中で黒い人影とすれ違うようになる。
黒い人影は日に日に女性の住むマンションに近づいていることに気づき――
- 終章
三津田氏は今回連載した6篇と、時任の体験に共通点があると気づき、時任と岩倉に語る。
共通点と暗号
幕間を挟むことで独立した短編ではなく、連作短編集のような構成になっています。
それぞれは完結しているのに、全体では最後まで読まないと完結しない。
女性編集者・時任と同じように、本書を読んでいる際に不気味な現象が起きる場合は……と注意書きもあります。
その上、隠された言葉も……
文庫版には終章が加筆されていますので、文庫版をおすすめします。
個人的には「死人のテープ起こし」「留守番の夜」「屍と寝るな」が好みです。
「留守番の夜」はやや洋風ホラーの雰囲気がありますね。
三津田信三さんの作品は、いずれもホラーとミステリーが融合しています。
また、三津田氏本人や三津田氏の知人、別の作品に別の作品が登場するなど、現実と虚構の境が淡く実話なのかフィクションなのか考えさせられる作品が多いです。
実話怪談とのことですが、信じるか信じないかはあなた次第。
どこからどこまでが嘘で、どこからどこまでが本当かはご想像にお任せ、といったところでしょうか。
あまり深く考えずに感覚で楽しむか、他作品とも比較して考察を楽しむか、読み方は人それぞれです。
三津田氏が親しんだミステリー・怪奇文学などの紹介も随所にあります。
実際に刊行されている三津田氏の他著作タイトルも。
この時「犯罪乱歩幻想」も書いていたのか~。
三津田氏の秀逸なホラー短編集、長編作品は他にもありますので、色々探してみてください。

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